3 議会で議論された民営化手法の検討について

  •  交通局では、バス事業の民営化について、昨年2月に提示した「民営化基本方針(案)」から議会での議論を踏まえつつ検討を重ね、前述のとおり昨年9月に「バス事業の民営化・譲渡の考え方について(大阪運輸振興株式会社への譲渡規模の範囲)」を提示し、その中で示したケースのうち「ケース2」を基本に民営化の検討を深めていく旨の考え方をお示しした。
  •  一方、議会からは、大阪シティバス株式会社への「一括譲渡」の検討に加え、「段階的譲渡」のスキームについても検討を進めるべき、との議論があったところである。
  •  このようなことに加え、「1 民営化の必要性」にもあるとおり、バス事業の民営化は早急に検討を進めて行く必要があることから、議会での議論・検討に資するため、「これまでの議会での議論」にもとづく民間譲渡スキーム(大阪シティバス株式会社への一括譲渡、段階的譲渡)について、さらなる論点整理や課題に対して考えられる対応策等の検討を行ったところである。



(1) 大阪シティバス株式会社に一括譲渡するスキーム
 議会での議論の内容
  • 平成25年第1回定例会交通水道委員会(平成25年3月14日)
    • バスは市民の足である。地下鉄と別になるのではなく、グループ会社・子会社化してしっかり守るべき。
    • 民鉄のスタイルから見て至極当然。オスカーを地下鉄が負担することになっても、バス会社を子会社化すれば地下鉄事業の収益になる路線を中心に考えていける。なぜ敢えて別々に民営化を目指すのか。
  • 平成25年第1回定例会交通水道委員会(平成25年3月26日)
    • 民営化した以上は公の関与も限界があるので、グループ経営する中で利益の最大化と路線の維持に対する責任を持ってもらうべき。
    • バスを切り離して民間に譲渡することについて、非常にリスクが大きい。新しい会社の子会社にして、一緒にやっていくのが一番いい。
    • 地下鉄は独占でバス会社はだめとはならない。市民に安心していただくよう運輸振興を使い、一体的な経営をしていただくという方向を考えるべき。そのことで、市民への5年後、10年後も移動手段はしっかりと確保されるという大きなメッセージになる。
  • 平成25年第2回定例会交通水道委員会(平成25年5月22日)
    • 競争性という公の発想で考えるため逆に民営化のメリットを出せない。グループ経営の観点から運輸振興に全て任せ、多角化などの経営努力で補助金を必要としない運営を行わせることが、市民にとって最もメリットがある。
  • 第2回交通政策特別委員会(平成25年8月1日)
    • 段階的譲渡は課題があるならば、運輸振興に一括譲渡と決めてはどうか。
    • 運輸振興が市内のバス路線を全て守り、多角化など経営努力によって、補助金を必要としない会社になることが、市民にとっても最もメリットがある。
  • 平成25年第3回定例会決算委員会(平成25年10月4日)
    • なし崩し的に一括譲渡といった、競争性の発揮がなされないような手法は取るべきではないと考える。
  • 第4回交通政策特別委員会(平成25年10月18日)
    • 交通政策の共有や市民の安心の担保、職員の雇用問題などから一括譲渡すべきと指摘してきた。 
効果と課題等の整理
  • 効果
    • 事業者の撤退という不測の事態は発生しない。
    • 交通局の出資会社が運営するため、地下鉄とバスのネットワークや交通政策部門との、一層の連携が期待できる。
    • 職員の転籍が比較的容易に進められる。
    【外部有識者からのご意見】
    • 全ての営業所が大阪運輸振興株式会社に譲渡されることから、市職員の転籍が容易で、地域特性に関する知識経験の活用が可能。
  • 課題等
    • 補助金の圧縮についての課題が残る。
    • 公募による競争性が働かないため、サービスアップが限定的となる可能性がある。
    • 地下鉄と同じグループの企業がバス事業も独占することは、競争による大都市としての交通インフラの活性化にリスクがある。
    • 大阪シティバス株式会社が、経営体制の強化やバス事業者として自ら運行計画を策定できるなど民間事業者と比肩できるよう、経営改革を進めることが前提となるが、実現できるかどうかのリスクがある。
       【外部有識者からのご意見】
      • 1事業者の独占となり、民営化の趣旨が反映されにくく、競争性が発揮されず、市の財政負担の軽減の効果が限定的となる可能性がある。
課題の解決に向けた考え方と検討事項
  • 考え方
    • 市の出資会社である大阪シティバス株式会社への一括譲渡は、ネットワークの維持や市内での一体的なサービス提供などメリットも多いが、課題としては「競争性の発揮」によるサービス改善やコスト削減が期待できず、交通インフラの活性化にリスクがある。
    • 「一括譲渡」により事業者が複数存在しないなかでは、この課題に根源的に対応することはできないが、次善の策として、すでに市場で「競争性」を発揮している民間事業者から経営陣だけでなく、「資本注入」という具体的な形で最大限経営に参画してもらい、結果として「競争性の発揮」に比肩するサービス改善やコスト削減を実現し、活性化を図るという方策が考えられる。
    • 現在、大阪シティバス株式会社においては、民間から招へいした役員2名を含む経営陣により経営改革が進んでおり、これを踏まえると、「資本参画」という形での経営参画となれば、一層の経営改革の進展が期待できるものと考えられる。
  • 大阪シティバス株式会社における経営改革の進捗状況
    【経営体制の見直し・強化】
    • 経営力の強化
      • 民間バス事業者から社外取締役を招へい(平成25年6月)
      • 経営企画室を設置し、民間鉄道事業者から常勤の取締役を招へい、経営企画室長として配置(平成25年12月)
    • 労務・運輸部門の強化
      • 労務人事部を設置し、交通局から労務人事部長兼労務人事課長として受入れ(平成25年10月)
      • 人事課長を専任化(交通局から受入れ)(平成26年4月)
      • 運輸課長を専任化(交通局から受入れ)(平成25年10月)
    • 本社部門、現場部門の組織・要員数の見直し
      • 安全指導体制の強化と、より効率的な運営体制の構築を主眼とし、現在の体制をゼロベースで見直し(平成26年4月に一部実施、平成26年度も継続実施)
    • 組織体制の強化
      • 市バス事業譲受後の経営計画を策定するため市バス民営化準備室を設置(平成26年4月)
    【賃金労働条件の見直し】
    • 自動車運転手の賃金労働条件の見直し
      • 乗務実績を成果とする賃金体系へ移行(平成26年度早期の実施に向け労働組合と協議中)
    • 本社部門・現場部門の人事給与制度の見直し(成果主義の導入)
      • 年功序列から能力や成果等を軸にした人事制度の導入(平成26年度早期の実施に向け労働組合と協議中)
    【運営コストの削減・新規事業の取組み】
    • 収益事業の強化
      • 送迎バスなど貸切事業(契約輸送)の実施に向け、貸切免許を取得(平成26年度の実施に向け検討中)
      • 新たな路線開拓による新規顧客の獲得(平成26年度の実施に向け検討中)
    • 交通局仕様システムの見直し
      • 運行管理、勤怠管理など簡素なシステムを再構築(平成26年度の稼働に向け検討中)
    【新しいバス会社として再生】
    • 社名の変更
      • 一般公募を実施し、社名を変更(平成25年12月に公募、平成26年4月に変更)
    • コーポレートメッセージ・企業理念の制定
      • 新たにコーポレートメッセージ・企業理念を制定(平成26年4月に制定)
  • 検討事項
    • 資本参画を検討するにあたっては、どのような事業者を対象にどの程度の割合で参画してもらうか、がポイントとなる。
      これについては、市と民間事業者の力を結集するという面を踏まえると、基本的には各々1/2ずつの資本構成が望ましいと考えられる。(連結決算の対象となり、経営上の責任も果たすという観点からの出資率は20%以上)
    • また、大阪シティバス株式会社に民間事業者が出資して良い、と思えるような条件整備も必要になると考えられる。
    • 出資いただく事業者は、これまでに交通事業者として経営力に優れた事業者が対象になると考えられる。
    • 資本注入の手法としては、株の売却や増資を募るといった手法が考えられるが、今後の事業展開に備えての資本強化という観点に立てば、増資が望ましいのではないかと考えられる。
  • 参考
    • 議決権保有割合と株主の権利・権限等
      • 議決権保有割合が3%以上(100分の3以上)の場合、総会招集請求権・役員の解任請求権・業務財産検査役選任請求権・会計帳簿閲覧請求権がある。
      • 議決権保有割合が20%以上(5分の1以上)の場合、連結決算上は関連会社となり、出資した会社の損益が連結決算として加算されるため、経営上の責任を果たす目的から、取締役などが派遣されることがある。
      • 議決権保有割合が33%超(3分の1超)の場合、株主総会の特別決議を単独で阻止できる。
      • 議決権保有割合が50%超(2分の1超)の場合、株主総会の普通決議を単独で成立させられる。
    • 平成26年3月31日現在の大阪シティバス株式会社の貸借対照表
      • 資産の部
        流動資産 802百万円(うち現金・預金 530百万円)
        固定資産 69百万円
      • 負債の部
        流動負債 216百万円
        固定負債 146百万円
      • 純資産の部
        資本金 10百万円
        利益剰余金 499百万円



(2) 段階的に民間事業者に譲渡するスキーム
議会での議論の内容
  • 平成25年第2回定例会交通水道委員会(平成25年5月22日)
    • オールリセットして民間譲渡するのではなく、例えば平成26年度に運輸振興株式会社及び南海バス株式会社にそのまま譲渡すれば良いのではないか。残り4営業所は市バスが残るが、2営業所は民間委託できる。委託後1年間の状況を見て、平成27年度にまた民間譲渡して段階的に民営化を図るという安全策を取ったらどうか。
  • 第2回交通政策特別委員会(平成25年8月1日)
    • 段階的な譲渡に関する課題はどのようなものが考えられるか。
  • 平成26年第2回定例会交通水道委員会(平成26年5月19日~20日)
    • バス事業の民営化への道筋として、段階的譲渡について、スキームの検討はどのような状況になっているのか。市民のバス事業、また市民の足を守るためしっかりと検討するべき。
効果と課題等の整理
  • 効果
    • 安全性、サービス性を検証しながら進められるので、市民・利用者の安心を担保しやすい。
    • 公募による競争性が発揮できる。
       【外部有識者からのご意見】
      • 大阪運輸振興株式会社が現在受託する営業所の譲渡となり、円滑な移行が可能。
課題の解決に向けた考え方と検討事項
【考え方】
  • 段階的譲渡における課題は、職員の段階的な転籍や財政効果の遅延、廃止条例の議決との関係である。
  • これに対応する方策としては、まずは現在大阪シティバス株式会社に委託している営業所をそのまま譲渡し、二段階目に民間事業者への公募による譲渡や、大阪シティバス株式会社による随意譲渡を行う、という方策が考えられる。(交通局が提示した事例のケース3に整合)
  • この手法で進めれば、職員は二段階目で一斉に転籍することとなるほか、二段階目も早急に進めることで、早期の財政効果の発揮が期待できる。(平成26年度予算 一般会計繰入金:2.9億円)
  • また、廃止条例案との関係は、ご賛同の方向性が見定められれば、一段階目においては自動車運送事業会計の予算案の承認という形で合意形成が可能と考えられる。
    さらに段階的譲渡による部分的な民営化により、民営化に対する市民の安心感が醸成されることから、最終的な全部譲渡へのご理解を深めることにつながると考えられる。
【検討事項】
  • 一段階目では公営が残ることとなるが、今後の経営リスクはもとより、公営での運営コストの抑制に限界があることや、管理委託によるコスト削減効果の縮小などによる直営営業所での収支の大きな悪化が見込まれる。
    このことから、再び市へ依存することになり市の財政負担の増大が確実で、早急に二段階目へ進めなければならないと考えられる。



  • 他項目アイコン
  • 他項目
  • 他項目アイコン
  • とじる

1つ前に戻る