2 民営化の目的・意義・優位性


(1) 民営化の目的・意義
 ア 公営企業の意義
   公営企業は住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たして
   おり、公共の福祉を増進していくことが本来の目的である。そもそも本市地下鉄事業が、公
   営企業として運営されてきた経緯としては、次のような事由がある。
(ア) 初期投資が多大にかかる民間では参入しにくいインフラ整備
       地下鉄・ニュートラムは、大量輸送・高速性・定時性に優れ、限られた都市空間を有
      効に活用できるだけでなく、大気汚染等の環境問題や交通渋滞による都市機能の低下等
      に対処できるなど、大都市施策に必要不可欠な都市基盤施設であることから、大阪市は
      基幹公共交通機関として、新規路線の整備拡充や既設路線の改良に積極的に取り組んで
      きた。
   (イ) 補助制度の活用、公営の信用力による起債
       資金調達の面においても、公営企業に対する補助制度の活用や、大阪市が公営企業債
      を発行することにより、巨額な建設費の財源を確保できた。
   (ウ) 短・中期的な収支にとらわれない経営
       お客さまサービスの改善や路線整備等による地域活性化の施策をするにあたっては、 
      長期的な視点にたった取組みが可能である。
      ↓
  長期的な視点にたった経営ができることで、路線整備やバリアフリー対応など、民営と一線を
  画した取組みを行ってきた。
 イ 今後の方向性
    これまで、公営企業という経営形態のもと
  • 大阪都市圏の交通ネットワークを整備し、毎日の通勤・通学など多くのお客さまにご利用いただき、日常生活に欠かせない都市インフラとなっている。
  • 経営面においても、経営改善努力の結果、継続的に利益を積み重ねている。
    ↓
  しかし、概ねネットワーク整備が進み、事業の管理・運営が中心となっているなか、少子高齢
  化等の事業環境の悪化、市財政の硬直化、公営企業の制約などがある。 
  また、さまざまな社会情勢が変化する中、次の100年間、どのような役割を果
  たすことができるのか、新たな官と民の役割を構築する必要がある。
  地下鉄事業の持続性や発展性の観点からは、公営企業の枠を超えて、自立した企業体として自ら
  の経営責任で、持続的にさらなる効率性や生産性を追求し、成長力を高めていくことができる組
  織体に移行すべき。
    ↓
     民営化の検討が必要
 ウ 民営化の目的・意義
   目的
  •  自立・持続・・・自らの経営責任で持続可能な交通機能を確保
  •  成長・発展・・・お客さまサービスの向上や戦略的な事業展開
  •  自治体財政への貢献・・・市からの繰入金の削減、市への納税・配当
  
 意義
(ア) 税金を使う組織から、納める組織へ (大阪市財政への寄与)
  • 地下鉄事業に投入している税金負担分を大阪市の他の事業に活用できる。【年間約200億円 (平成14~23年度実績)】
  • 地下鉄事業が民間事業者として大阪市に税金(固定資産税など)を納付し、大阪市の税収増に貢献する。【年間約50億円 (民営化後の試算)】
  • 経営成績に応じた配当が期待できる。【年間約25億円 (民営化後の試算※)】
  ※ 税引後の利益に、配当性向21.2パーセント(東京メトロの配当性向を参考に仮定)と
    して試算

(イ) さらなるサービス向上に向けて (市民・お客さまのメリット)
  • 一民間企業として経営を続けていくためには、市民・お客さまに選択していただける企業となる必要があることから、さらに「お客さま第一主義」を徹底した事業運営を追求する。
    ⇒料金値下げ、終発延長や関連事業の展開など

(ウ)安全の確保は輸送の生命 (安全の確保は最優先)
  • 輸送の安全の確保は、交通事業者として企業生命に係わる問題
  • 安全の確保は鉄道事業経営の原点との観点から、民営化により安全に対する意識改革を促し、より緊張感を持って一層の安全の確保を目指す。

(エ) 首尾一貫した経営責任と権限を構築 (意思決定の明確化と経営の自由度向上)
  • 株式会社化により、権限と責任が一致する体制を確立し、会社が経営判断の責任を負う。
  • 市場原理のもと、自らの責任で経営を行うことにより、財務規律を強める。
  • 収益を拡大、費用を削減し、利益を確保しようとするインセンティブが働く。
  • 民間の経営視点を導入することにより、意思決定を迅速化。スピード感のある経営を行う。
  • 契約や人事上の課題など公営企業であるがゆえの制約から脱却を図り、経営資源を自らの責任で自由に調達する。

  •  柔軟な契約、調達方法による調達コストの削減 【PT試算 約32億円】
  •  一般管理部門など管理コストの削減 【PT試算 約14億円】
  •  資金調達手法の多様化

  • 一民間企業として、他事業者と対等な立場で連携を強化し、都市基盤として大阪都市圏の成長を支える。

(オ) 前例主義になりがちな公務員からチャレンジする社員へ (組織風土の変化)
  • 従業員の自発的な行動を尊重し、ひとりひとりが経営を意識したプロ意識の高い集団を作る。
~民営化に向けたマインドの醸成、能力開発の取組み~
  •  民営化基本方針や新会社の目指すべき姿を全職員が共有するための研修の実施や、労使協議の活性化を図る。
  •  民営化に向けた実務スキルの習得に向けて、能力開発支援策の実施を図る。
 
(カ) ビジネスチャンスを拡大 (経営の多角化)
  • 鉄道事業以外の事業(広告、流通、不動産等)を推進し、鉄道事業を持続的に運営できる財政基盤を強化する。

(キ) 新会社は経営に集中 (官民の役割分担の明確化)
  • 民営化によって、鉄道事業者として効率的な経営を追求し、都市計画としての鉄道ネットワークの検討は行政が担当する。必要なネットワーク整備については、責任と負担を明確にしたうえで、経営判断により参画していく。


(2) 今後の経営形態の考え方
  • 今後の事業環境の悪化を想定すると、概ね鉄道整備が進み、事業の管理・運営が中心となっている現在の地下鉄事業の現状を考えると、自立した企業体として自らの経営責任で、持続的にさらなる効率性や生産性を追求し、成長力を高めていくことが極めて重要
  • 効率性や生産性を追求するためには、柔軟かつ機動的な経営が可能な経営形態を指向するべき。
  • 民営化は上下分離方式ではなく、上下一体の株式会社とし、当面、100パーセント大阪市出資の株式会社化を図る。(新たな大都市制度に移行した場合でも、当該株式は現市域の基礎自治体が保有することとする)
  • 将来、株式上場が可能な企業体を目指し、完全民営化も目指す。


(3) まとめ
  株式会社化することによって、3つの目的が達成される。
    自立・持続(自らの経営責任で持続可能な交通機能を確保)
  •  権限と責任が一致する体制を確立
  •  外部環境や経営状況に応じて、柔軟かつ機動的な経営が可能
  •  財務基盤の強化・収支構造の見直しにより鉄道事業を持続的に運営
 成長・発展(お客さまサービスの向上や戦略的な事業展開)
  •  サービスの向上や新たな事業展開により、都市の成長戦略に貢献
  •  他の鉄道事業者との連携を推進
 自治体財政への貢献(市からの繰入金の削減、市への納税・配当)
  •  地下鉄事業に投入している税金を大阪市の他の事業に活用
  •  民間事業者として大阪市に税金を納付し、大阪市の税収増に貢献
  •  経営成績に応じた配当が期待できる。
  •  新たな大都市制度に移行した場合は安定的な税収、配当により現市域の基礎自治体財政に貢献
 ~民営のデメリットの克服方策として~
  •  「民営では赤字が続かないように、投資を抑制するのでは」ということに対しては入札の弊害としての調達コスト・保守コストを削減することなどにより、質を落とさないように検討する
  •  経営陣の育成については、民間人の招へいや民間経営の教育を実施する などに取り組む
 ↓
 民営化の目的を達成


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