1 なぜ民営化するのか


(1) これまで公営で地下鉄事業を建設・運営してきた意義
   大阪市営交通事業は、公営最初の路面電車を明治36年9月12日に築港~花園橋間で開業したことに始まり、その後、昭和2年にはバスを、昭和8年には日本で最初の公営地下鉄として梅田~心斎橋間で営業を開始した都市のインフラ整備という民間では参入できない部分を公が担いつつ、大阪のまちづくりと一体となってネットワークの拡大・充実に努めてきた。
   
  これまでに地下鉄・ニュートラムで137.8キロメートルの路線網を整備した。
  また、ニーズの多様化・高度化への対応として、バリアフリー施策等の充実を図るとともに、
  「公営」においても経営の効率化に努めた。
   【ニーズの多様化・高度化への対応事例】
  • 駅舎冷房(昭和31年~)
  • エスカレーター(昭和39年~)
  • エレベーター(昭和55年~)
  • 冷房車(昭和54年~)
  • 可動式ホーム柵(平成18年~)
  【経営改善について】
   経営については、新線建設等による減価償却費や支払利息といった資本費負担が重く、赤字
   が続いていたが、助成制度の拡充や経営健全化に積極的に取り組んできたことにより、平成
   22年度には公営地下鉄で初めて累積欠損金を解消し、最近では毎年、黒字を計上している。
    
  このように、これまで公営企業として地下鉄を建設・運営し、都市活動を支える交通インフラ
  として、その役割を果たしてきたことは大いに意義があったものと考えられる。

(2) 市営地下鉄事業を取り巻く経営環境の変化や課題・問題点
   ア 経営環境の変化など
      これまで公営企業として地下鉄事業の果たしてきた役割は大きいが、一方で、これを取り巻く経営環境や社会経済情勢は大きく転換しつつある。
    (ア) 乗車人員の減少と今後の人口減
  • 乗車人員は社会経済情勢の影響により平成2年度をピークに大幅に減少している。 (現在は、平成2年度と比べ年間約2億人減少)
  • 平成24年度、25年度は営業努力により回復したものの、今後、少子高齢化が進み、とりわけ15~64歳の生産年齢人口の減少が予想されていることから、長期的には乗車人員の減少が続くと見込まれ、経営環境は厳しさが増すものと想定される。
        
       このような状況に対応するためには、まちづくり、集客ノウハウ、沿線との提携など
       民間手法の導入が必要である。

    (イ) 「民にできることは民へ」という流れ
         社会状況が変遷していく中で、「官から民へ」「民にできることは民へ」という
         観点から、多くの公企業が民営化しており、会社の効率性、収益性については大
         幅な改善がみられる。

         これは民営化時における大幅な要員体制の見直し、民間の人事・労務制度の導
         入、契約における自由度の向上や自律的な投資計画の策定といったことによるも
         のと考えられる。

    (ウ) 現在の国の成長戦略の方向性
       現在、国では、次のような観点から成長戦略が掲げられている。
  • 投資の促進
  • 世界経済とのさらなる統合
  • 人材の活躍強化
  • 新たな市場の創出
         成長への道筋として民間の力を最大限引き出すために、「産業の新陳代謝とベン
         チャーの加速」、「規制・制度改革と官業の開放の断行」が示されている。
     (エ) これまでの地下鉄に対する市税投入と市の財政状況
        助成制度があれば、それに頼りがちな経営になってしまい、一般会計から多額の補
        助金・出資金を繰り入れてきた。
          また、市の財政状況も市税収入が低い水準であることに加え、支出では生活保
          護などの扶助費が増加し、さらに過去に発行した市債の償還が本格化しており
          財政を圧迫している。
     【地下鉄に対する市税投入】
  • 過去10ヵ年では、一般会計から累計 1,724億円を繰り入れている。
  • 現在、繰り入れられるべき補助金の減額を行うなど、一般会計に貢献しているものの、一般会計の扶助費、公債費の負担増加により市財政の硬直化が進む中、現行スキームは維持できない状況にある。
     【市の財政状況】
  • 市税収入が低水準で推移するなか、人件費や投資的経費の抑制を図っているものの、市税収入がピークであった平成8年度決算と比較すると、扶助費や公債費は2倍を超えるなど義務的経費が高い伸びを示している。
   イ 低い関連事業収入の比率
       乗車人員の減少など経営環境の変化に直面している状況にあって、私鉄各社は関連事
       業の収入の確保を図っているが、市営地下鉄事業においては、その比率は小さく、伸
       びていない。
(3) 経営環境の変化や課題・問題に対応していく上での制約や体質
  ア 公営の制約
     「行政の一組織」として適用を受ける法令等 (地方自治法、地方公営企業法、地方公務員
      法、大阪市条例や規則・基準等)によって、「企業体」としての責任・判断だけでは経
      営資源 (ヒト、モノ、カネ)を活用できなくなっている。
     【主な制約】
      ヒト
  • 採用形態の二重構造 (人事委員会採用と交通局採用)
  • 経営幹部の異動・組織の改廃における管理者権限の制約
  • 懲戒処分の決定に至るまでのさまざまな手続き
      モノ
  • 競争入札に際して必要な手続きや期間
  • 入札の結果として、設備・システムにおける複数の製造メーカーの混在によるメンテナンス・更新コストの増嵩
  • 業者に対する法令上の「監督」や「検査」など手続き上の負担
      カネ
  • 予算の策定・変更における管理者権限の制約
      関連事業
  • 鉄道事業と相当因果関係を持つものへの限定
  • 子会社を活用した事業展開における制約
  • ビジネスパートナー選定における制約
  • 職員の他企業への出向やノウハウを有する外部人材の招へいにおける制約

  イ 公営の体質
   「公営企業」という企業形態ではあるものの、経営に関する権限を企業外にも依存しているこ
    とや「公務員」として考える「経営」の視点の限界などから、次のような意識に陥りがちで
    ある。
  • 公平性の観点から、市内全エリアで同水準のサービスにこだわりがちになり、お客さまのニーズを捉え、タイムリーなサービス提供で応えていくことが苦手
  • これまでの決まりごと、前例や慣習に縛られやすい風土があり、リスクをとりながら状況を踏まえて機敏に撤退・参入しながら事業を成長させていくことが行われにくい
  • 国や市の方針に従っておけば良いという姿勢になりがちで、自律的に課題や組織目標をつくることに不慣れ
  • 情報発信のタイミングや手法に関するノウハウの不足
       
     公営である交通局は、「他律的運営」に陥りがちである。
  ウ まとめ
    公営の制約や体質により、公営のままでは、経営環境が転換していく中、
  • 鉄道事業の効率的運営が進まないことに加え、乗車人員の減少をカバーする関連事業の成長が期待できない
  • お客さまのニーズにスピーディーに対応できない
  • 市の財政状況が厳しいなか、税金負担が一定継続する
  • 職員についても、リスクをとりつつチャレンジしながら成長していけるという環境でない
       
    これらの課題を解決し、市民・お客さまに貢献していくためには、公営企業 (地方自治
    法、地方公営企業法、地方公務員法、大阪市条例など)の枠組みを超えて、企業体として
    一貫した経営の責任と権限を持つべき
       
    「民営」による経営に転換し、「他律的運営」から「自律的経営」へ変革する必要がある。
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