3 今後の事業戦略について


(1) 目指すべき経営理念とビジョン
   大阪市の交通事業は、明治36年(1903年)に路面電車を開業して以来、100年以上の歴史があり、市の発展とともに、これまで関西の中心都市の交通ネットワークとして重要な役割を果たしてきた。また、輸送の安全を第一義とする「ひとにやさしい地下鉄」として、安全投資やバリアフリー施策などにも先進的に取り組んできたところである。民営化後においてもその歴史や経過、そしてこれまで果たしてきたそれらの役割を「経営理念」の根本として継承していきたいと考えている。さらに、市営という殻を破り、民営化という新たな飛躍を実現させ、これまで育てていただいた市民のみなさま、お客さまに、実感できるサービスをスピーディーかつ柔軟に提供していくほか、市財政への貢献を果たしていくとともに、将来ビジョンとして次の点を見据えていくこととする。
 【将来ビジョン】
 ~基本理念~ 私たちは「ひと」と「ひと」、「ひと」と「まち」をつなぎ、大阪の元気を創ります。
 ア 「交通事業」を核に「生活・まちづくり企業」へ
   「交通事業」の機能充実に加え、地域の活性化に寄与し、市民や沿線とともに発展していく
   「生活・まちづくり企業」を目指す。
  • 鉄道会社としての最大の責務である輸送の安全性・信頼性の向上
  • お客さまニーズを汲みとったサービス向上の実現
  • 大阪という巨大マーケットで経営を行う地下鉄の強みを活かした事業展開と大阪経済の発展への寄与
  • 地下鉄と沿線地域との連携による沿線価値の向上
 イ 関西鉄道ネットワーク機能の連携・強化の中核
   現在、関西の中心部で各鉄道会社を結び付けている機能を、民間の経営意識を持ってより機
   動的かつ柔軟に発展させる。また、他の鉄道会社等と共同して関西圏全体を視野に入れた事業
   展開を進め、関西圏の総合的な鉄道ネットワーク機能の充実に寄与し、さらなる利便性の向上
   やお客さまの移動を促すことを目指す。
  • より早く、より安く、より便利に移動できる交通インフラの構築
  • 改札シームレス化、相直や乗継運賃問題においても、リーダー役を担う
  • 地下鉄ネットワークの整備
 ウ 大阪の地下を「グランド・リニューアル」
   開業から80年経過した地下鉄をブラッシュアップして、「地下のまち」の魅力アップに貢献
   し、より魅力的な大阪の地下空間を目指す。地下空間は、鉄道と商業施設だけでなく、さまざ
   まな都市機能を構築して、地上と連携していく。
  • 地下を明るい空間に変え、地下から大阪のまち全体を元気に
  • 駅とつらなる地下街との一体的な「地下」のまちづくり
  • 大阪の地下空間に新たな付加価値を創造する
  • 子育て支援、金融・行政サービス、コミュニティスペースの提供など多機能的な地下空間に
(2) 具体的な取組み
 ア-1 輸送の安全
   輸送の安全の確保は、運輸事業の基本で企業の存続にかかわる重大な問題であり、経営判断の
   最優先課題であることから、ハード・ソフト両面から、揺るぎのないようこれからも取り組ん
   でいく。
  ~ソフト面~
    【安全推進室(仮称)の設置】
        • 新会社に安全推進室(仮称)を設置し、安全管理体制のスパイラルアップを目指す。
    【安全研修施設の活用】
        • 全職員参加の安全の追求を実現するため、過去の事故等からその重大性やそこから得られる教訓、各種基本動作の重要性などを学ぶことができる安全研修施設(輸送の生命館(仮称))を平成25年6月末に開設し、全職員に対して体験型研修を実施する。
  ~ハード面~
    【運転保安設備等の整備】
      • これまでも、列車衝突や重大事故防止のためにATCやCTCといった運転保安装置を、他の地下鉄事業者に先駆けて導入し、輸送の安全確保に努めている。
      • 今後は、これら高度で重要な設備について、その機能が十分発揮できるよう適切に維持管理し、さらに技術の進歩に合わせた機能の向上を図るなど必要な投資を行い、常に高いレベルでの輸送の安全確保に努めていく。
    【地下構造物、高架構造物の維持管理・延命化】
      • これまでも、検査・補修による適切な維持管理を実施し、また他の地下鉄事業者に先駆けて、コンクリートの剥落対策や構造物の予防保全対策の実施している。
      • 今後も、平成24年度から5年間で約40億円の投資を行って、橋梁やトンネルなどの劣化の可能性のある箇所に対して、事前に補強や被覆を実施するなど、最新の技術を積極的に活用し、必要な投資を行って構造物の予防保全対策を確実に進めていく。
    【高架橋やトンネルのさらなる耐震性の向上】
      • これまでも、地下鉄の耐震対策については、平成7年に発生した阪神・淡路大震災の被害状況を踏まえ、国の指導に基づき、高架橋脚約1,000本、トンネル中柱約1,500本の補強を完了させており、また交通局独自の特殊構造物である石積みや無筋コンクリートのアーチトンネル区間についても補強を完了させている。
      • 今後も東日本大震災の被災状況などから得られた、新たな知見・耐震設計基準等を踏まえ、高架橋やトンネルのさらなる耐震性の向上に取り組み、安全・安心な地下鉄を目指す。
ア-2 バリアフリー
 ご利用していただく市民・お客さまのニーズにしっかりお応えすることが経営判断の根本であり、バリアフリーに関しても十分な水準となるよう取り組んでいく。
  • プラットホームからの転落や列車との接触事故防止について
    可動式ホーム柵設置について、千日前線は平成26年度の導入を着実に進めるととも
に、御堂筋線は転落・接触事故が最も多いことから、できるだけ早期に効果が表れる
よう、転落件数の最も多い天王寺駅と心斎橋駅に平成26年度までに可動式ホーム柵を
導入することとし、他の転落件数の多い駅についても引き続き対応を検討していく。
また、その他の路線についても、転落・接触事故の撲滅を目指し検討していく。
  • エレベーター、エスカレーターについて
    バリアフリー経路の改善を図る新たなエレベーター整備や、利便性向上のためのエ
スカレーター整備を実施していく。

ア-3 料金値下げ
   【平成26年4月】消費税増税後でも初乗り運賃を10円値下げ(200円→190円)
     ※システムの関係上、区間の変更は実施困難
   【平成27年10月】4.5kmまでの短距離区間の運賃を細分化して、さらなる値下げを目指す。
     (~1.5km 180円、~3km 190円、~4.5km 220円のように1.5km刻みで運賃設定)
     ※消費税増税や民営化後の経営状況等を勘案し、実施時期・内容を判断
  • 今回の料金値下げは、民営化を前提とした効率化を行い、その原資を生み出すことによって可能となっている。本格的な値下げの前に、少しでもお客さまのニーズに応えるべく、平成26年4月の消費税改定に合わせて初乗り運賃の値下げを先行して実施する。
  • 料金値下げは、交通局として民営化のステータスシンボル的な項目と位置付けている。公営のままでは発想されず、かつ、実施のために厳しいコストダウンを実行し、またお客さまの支持を得て、顧客を囲い込み、増収につなげていくなど、まさに民間感覚そのものの取組みである。

ア-4 終発延長
    終発後に運行している回送列車の営業化等により、終発時間を延長する。
    【平成25年3月23日(土)に実施】
      御堂筋線 谷町線 四つ橋線 中央線 千日前線 長堀鶴見緑地線 今里筋線 
      南港ポートタウン線
    【平成25年度以降実施予定】
      堺筋線等 相互直通している事業者とダイヤ調整を行ったうえで終発延長

ア-5 関連事業の展開
  • 運輸収益以外の事業を育て、地域・沿線とともに発展する「生活・まちづくり企業」への進化を目指す。
  • また、企業の利益拡大、事業規模の拡大を図る。
   【新規事業の展開イメージ】
  • 地下鉄事業の持つ経営資源の強みを活かした新規事業
  • 沿線の強みを活かした事業
  • 大阪市等の事業の受託
  • そのほか、既委託業務の直営化(グループ事業化)として、駅業務や駅務機器点検業務などこれまで外部に委託していた業務について、直営で対応していく。

ア-6 地域活性化の取組み
   沿線地域の活性化に参画していくことにより、沿線の魅力向上・輸送ニーズの掘り起こしにつ
   なげる。

イ-1 他の鉄道事業者等との連携(移動の広域化)  
  • 関西の鉄道ネットワークの中核を担う交通機関としての役割
  • 関西圏の中枢都市の輸送を担う交通機関として、大阪市域を超えて関西の発展に資するよう、さらなる利便性の向上について、鉄道事業者間の連携を深めていく。
  • 利便性の向上や、鉄道利用客を増やすという観点から、乗換経路や案内の改善など他社と地下鉄の乗継駅における鉄道ネットワーク機能の充実(シームレス化)を図るとともに、改札シームレス化、相直や乗継運賃問題においても、リーダー役を担う。
  • そのほか、
  • 他の鉄道事業者との共同PR戦略
  • 他の鉄道事業者との共同インバウンド戦略
  • 旅行業とのシナジー効果
  に取り組んでいく。

イ-2 地下鉄8号線の延伸など地下鉄ネットワークの整備
    地下鉄8号線の延伸など未着手の条例路線をはじめとする、今後の大阪市における鉄道ネッ
    トワーク整備について、大阪市の交通政策部門と交通局が事務局となって、地方自治法第
    138条の4第3項により、条例に基づく附属機関として、外部の専門家による検討委員会を設
    置するとともに、沿線区や関係局が連携しながら検討を行い、大阪市としての考え方を明確
    にし、新会社はその考え方を最大限に尊重していく。

ウ-1 地下鉄のブラッシュアップ
  • 駅構内を快適な空間へ
  • 快適なトイレへの改善
  • 売店のリニューアル
  • 駅の美装化
  に取り組んでいく。
  • 駅ナカ事業
  • 駅ナカの展開による明るい駅づくり
  • 梅田・なんば・天王寺に続く、新たな駅構内事業スペースの創出
  • より効果的な事業運営手法の検討
   に取り組んでいく。

ウ-2 地下街との連携
   【メンテナンスの協力(技術力を活かした一括管理)】
     近接構造を活かした駅空間や設備のシェアによるメンテナンス協力を検討していく。
     防災上も技術力上も地下鉄、地下事業者、建設局などが各々で対応するのではなく新会
     社が中心となって、統一管理運営することが望ましい。
   【コラボレーションによる集客力の向上】
     地下街における事業者と地下鉄が連携して、お客さまの利便性・購買力をより高め、PR
     を進めるとともに、地下街のアクセスのよさを活かして魅力アップを図っていく。
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   各地下街と一体となった事業展開、地下空間の一体管理を目指す。
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